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茫茫漫遊記 土耳古編

トロイからエフェソス コンヤからカッパドキア 再び
アンカラ イスタンブール
    

歴史の中の一瞬なりと修理中のトロイの木馬を見て立つわれは

伝説の木馬が冬の雨に濡れ顕ちくるはユリシーズの栄枯の幻


積まれいる日干し煉瓦を暗くして遺跡の岡に冬の雨降る

五千年経りし遺跡の井戸のあとに今われは立ちて何想うべし

わが傍に寄り来し大き犬の眼を優しみて遺跡の丘を歩みつ

紀元前の歴史重ねし石畳にわが生の一瞬を重ねて歩む

遺跡を覆う草は五千年の命継ぎて緑濃くあることの妖しさ


愛憎に身を灼く神の物語信じたくなる国を旅する

神もまた愛して憎み妬みしとう話から始まる土耳古の歴史

生贄の台が崩れし神殿の前に白くあれば手を載せてみる

浮き彫りに勝利の女神を刻ませて滅亡を思わずに過ぎたる人ら


聖母マリアの遺跡に祈りの水を飲む信仰のなきことは思わず
大理石の都市が遺跡と呼ばるるまで過ぎたる時間の中の愛憎

五千年の歴史に五千回の春のあり芽吹きし草の秋には枯れて

地震に崩れし神殿の柱乾きおり人の生きたる影さえ見せず

崩れ毀つ神殿の傍らの石積みに今も湧きてやまぬ水の音する

大理石に舗装されし遺跡の路の辺に夾竹桃の冬葉のみどり

モザイクに描かれし鳥が世紀経て崩れ毀てる遺跡を飾る


角とれし大理石の敷石われも踏む靴音小さくたつを聞きつつ

脱皮すればあたらしき命を持つとして神殿に蛇に飾りし人ら

果されぬ願いはあわれ崩れたる神殿になめらかな生贄の石 

神の力ひたに信じてすがりしといにしえ人の純を羨しむ

モザイクの床に描かれ飛び立てぬ鳥を遺跡の床に哀しむ

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