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短 歌  ウイーン・東欧編
オーストリア

 王宮前
珈琲の苦きを喫みて消せぬ記憶消したき記憶いずれも重し

崩れゆくビルを遠くに見たとありマンハッタンに住む息子のメール
テロをよそに旅発つわれらを見送りて「平和ぼけ」だと子は呟けり

時差十二時間越えねばならぬ昼真昼飛行機の窓閉ざして眠る

チェコ語からドイツ語になり耳が少し嬉しくなりてウイーンにつきぬ
遠き栄華まざやかに朝の日に向かう緑青色のマリア・テレジア像
国境の検問を長く待つひまに摘みし野の花ノートにはさむ

国境を越ゆれば乳房豊かなる牛の群れいる風景となる


小川に沿う道は楽聖の散歩道われもひそかに耳たてて過ぐ

家毎に松の葉をつり新酒売る葡萄畑の中の明るき村は

シューベルトの墓碑

旬の茸のフリッターにレモンをしぼりつつ遠きウイーンの人懐かしむ

ベートーベンも酔いて描きしか天井に古きサインの残る親しさ

六十年ウイーンの地下に埋めありし戦車を掘ると言う平和な話


何処にか戦いあれど夕光を穏しく満たすマリア・テレジア広場

愛のために死ぬと言う主題を聴くために盛装をしてオペラ座にゆく

世紀末の暗き主張が身にひびく絵をみるウイーンの旅終わる日に

月光とキャンドルの灯でとるディナー旅の思い出を少し濃くする



大皿をはみでるウインナシュニッチェル残さず食ぶるも思い出のため

大陸の乏しき灯りを折々に見下ろして長き夜を機は飛ぶ

藍深き夜空にわが機の清く曳く飛行機雲をふとも思いつ

オリオンの傍をわが機も星となる灯をともしつつ日本へ帰る

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