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短 歌  スイス・アルプス名峰編
スイス スイス
6月25日  アイガーの朝

氷河より流れでる川にそいてゆく氷河特急とう赤き列車は

検札の車掌はむっつりとめぐり来て写真を撮ると言えば微笑す

教会の塔遠く見て深谷の斜面の小さき村幾つ過ぐ



二十年ぶりに仰ぐアイガーふうわりと朝焼け雲を纏いていたり

穏やかに群れて草食む牛のいる谷をゴンドラに越えてゆくなり

ゴンドラに運ばれながら見遙かす谷間に霧の動く所あり

ユングフラウに登頂すれば天にとどくかと思うまでに晴れたり

過ぎがてのお花畑に首立ててアルプストリカブトは藍未だ濃し


霧動くアルプスの山にこだまさぜ唄う男は自が声聞くか

カウベルと歌声が響けば喜ぶかこだまが霧湧く谷間をわたる
8月25日  ユングフラウ

色濃きも薄きもありぬアルプスの蛍ぶくろの群れて小さく

アルプスの岩陰に咲く花々の細かくて清しき色せるあわれ

道の辺に野性ブルーベリー熟れおれば摘みてたべつつアルプスにいる


アルプスの花の名幾つ愛しげに言いつつ歩む若きガイドは

登山道を足どり軽くゆくガイド花咲く斜面に立ちて待つなり

「お守り」と日本語で言う男からエーデルワイスの押し花貰う

チーズ強く匂うアルペンマカロニは日本の遠さを思わせる味

世界一の高度にあるとう郵便局に日本のポストが口開けて立つ


登山電車の駅はアイガーの中にあり窓から蒼き氷河を見せて

花好きの嫁への土産アルプスに咲く花の種子幾つかえらぶ
ルツェルンの橋

小雨降る氷河湖凪ぎて岸に沿う木彫りの町の午後静かなり

水彩の絵となりて見ゆ冴え冴えとスイスのみどりを映す氷河湖

永世中立は平和に遠し家毎に核シェルターを持つと言う国



小雨降るルツェルンの街教会の塔を仰ぎて頬を濡らしつ

旧市街は老人の住む場所として車庫も広場もない石造り

駐車場も核シェルターもなき旧市街老人たちが穏やかに住む

街を貫く大川の辺の旧市街角すり減りし石畳道

屋根付きの木橋を飾るゼラニューム赤冴え冴えと水に影置く


木橋に一人坐りてセロを弾く少女の薄き肩覆う髪

旅終わる日の感傷にすずろ渡る橋の上に小店に絵はがき買いぬ
ライオンの記念碑

スイスだから湖に映る空も青いと岸辺に一人頷きてたつ

花を飾る橋辺に寄りて白鳥の遊びおり湖に注ぐ大川

外つ国に果てし兵士の鎮魂の碑に横たわる瀕死のライオン



雇われて戦うことを業とせしスイスの重き過去おもうべし

中世の石畳道をつややかに見せてやさしよひとときの雨

思いがけず得し豊かなる時間あり一人はなれて入る美術館

美術館に入れば全きわが時間ピカソが横目で心をのぞく

美術館にクレーの絵はがき購えり旅の終わりのこの充足感


待ち合わせは高級時計店ショーケースに時間が華やかに刻まれている

宝石を眩しく飾った時計でも一分は一分一日は二十四時間

一日が次第に短くなるごとしスイスの旅の終わり近づく

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