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   短 歌  初めての世界一周編(その1) (その2) (その3)  

日本からインドまで
出 航



ホンコン



シンガポール



モルジブ



インド

旅発ちしあと野も山も春になりわが庭の老いし桜も咲かん      
手を振るのが楽しくてたまらぬ幼子と手を振りあえり旅発つわれは

余生と言う時費うべく旅にでる船より赤きテープを投げて

別るると投げし紙テープちぎれはて風の重さが手に伝い来る

現実との細き絆の切れ端のごとき紙テープわれは手に持つ
出航をしらせる銅鑼を打ちてめぐる若きクルーの眉すがすがし

いずこより来し鴎らか落日に身を染めて船をながくめぐれり

水平線より出でて水平線に沈む陽を見しのみに船の一日過ぎぬ

幸いのいつか来るべし海のかなた灯台ひとつ瞬きやまぬ

波穏しき海を裂くごとく現れてクジラは高く尾鰭あげたり

尾鰭あげて沈みし鯨の行方知れず海たいらかに日を照り返す

戦いに逝きたる命も水底に在りと思う海に夕日が沈む

幾たびも生死超えしと言う男夜ごと甲板に星を見あぐる

南十字星・オリオン・昴もちりばめて藍の色濃し海の上の空

茫となりし戦の記憶よみがえるただならず濃き海の藍色

船着き場を陸より高くしつらうる海に沈みゆくと言う島の人々

魚らは燦々とおり熱帯の日差し透き通る珊瑚礁の海

桟橋の下は透き通るコラルシー大き海鼠の幾ひきもいて

群舞なす海豚の去りて船腹に波は小さき虹たてている

わが船のかきわける暗き海の上たまゆらゆれてあわし夜光虫

アラビア海の熱き昼過ぎ現れてぬれぬれと鯨の背ひかりいる

帆を立てし小さき漁船とすがうとき手を振ればみな手を振り返す
埠頭にてインドの少女に貰いたる歓迎の薔薇は小さく赤し

船室の涼しさに首立てしインドの薔薇わが旅心すこし慰む

貧しきは貧しきものの生き方を術なしとして暑しインドは
彼岸きてぬくき日本かインド洋に船の食堂のさくら散り果つ

繁栄の証しとは既に思われぬインド門を見放けつつムンバイを発つ

貧困と繁栄の混沌を知りて発つ見放くればムンバイは逆光の街

油浮く埠頭離れて見返れば大きインド門はくらぐらと立つ
役にたたぬサリーを何となく買わされてインドを発てりわれも乱れて

アラブ首長国連邦からトルコまで

U A E


ヨルダン



エジプト



イスラエル



トルコ



静かなる平面と見ゆる海に降る雨に音なしと思いつつ更く

アラビアの風はひと夜を吹き荒れて船の手摺りに乾く塩つく

砂いろに手摺りの砂を乾かしてアラビアの夜の風はやみたり

赤く乾く陸を見放けて船にのむアラビアンナイトと言うカクテル甘し

紅海に入りて満ちたる月明かり銀の光を海にのべたり
ヨルダンとイスラエルは今は平穏にありて国境の木々みどり濃し

国境の港向き合うアカバ湾をゆったりと飛びてめぐる鴎ら

波荒れて近づけぬ港一つ過ぎて夜半の月映すスエズの海は

運河の岸辺の街に聞きたる犬の声親しと思う旅のこころは

犬の声いずこにかしてスエズ運河の岸辺の街は朝となりおり
朝早きないるの河に漁る小舟濁る水より網を引き上ぐ

沖天に月輝けばピラミッドわが前にありて時を超えたり

ベドウィンのキャンプに敷ける絨毯は獣の臭い荒あらとせり

まざまざとその様を見る如くならべありミイラをつくる脚高き机は

謎のままありし幾世紀きらきらし若き王のミイラの黄金の棺     
食用の鳩飼う小屋の数多あり土しろく乾くエジプトの村

スカラぺのペンダントひとつわがために購いて楽しくエジプトを出る

白き石と赤き煉瓦の街並みの鮮やかにありエルサレムの街

混雑に疲れて入りしレストラン鮭のムニエルのレモンをしゃぶる
信仰をもたぬわが来て歩む道傷つきし基督の歩みたる道
石畳に血を滴らせ歩みしと基督を言えばわれはただ聞く

過ぎこしの祀りに祈る人の声聞くのみにして立つたどきなさ

混雑に巻き込まれたるバスとまり嘆きの壁はわれらを拒む

祈るべきことなき故に拒否ならん嘆きの壁に行けぬわがバス

マホメット、キリスト、モーゼを物語とわれは聞きつつ旅にいるなり
対岸の岡のモスクに祈る声聞こえ来て暑し今朝の目覚めは

一人坐る寸法の模様に織られある絨毯敷きつめてモスクは暗し

人間の欲望を嘲笑う大きさにトプカプの宝剣に碧玉ならぶ

サルタンの宝物殿に有田焼あれば自ずから足とめて見る

街角の屋台に買いしトルコパン二万リラというを分かちあいたり
百五十万リラをはたいて夫と買う魔除けの目玉の小さきを二つ

東洋と西洋のはざまは迷路めくグランドバザール昼を灯して

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