短 歌 初めての世界一周編(その2) (その1) (その3)
ギリシャからジブラルタルまで | |
ギリシャ イタリー |
オリンピックの碑に彫られいるTOKYOの文字をなぞりつ旅人として
ソクラテスの登りしと思うアクロポリスに大理石の段長く続けり 柱のみ残る神殿の岡につづくなめらかに大き大理石の段 登り来しアクロポリスは神殿の太き柱の影のみ黒し 多島海と言うのの記憶杳として島々をみどりやさしく覆う 今朝とれし鯛の塩焼きと白ワイン島のレストランの素朴なメニュー 火山灰の下に伝説をねむらせて島の人々はつつましく住む 幾世紀も堆積せる泥を巻き上げて水濁るなりヴェネチア港は 小雨降る運河をすいと走り抜ける水上タクシーと言う名のボート 執着をまだ捨てきれぬもどかしさ小雨降るヴェネチアの石畳道 土産物屋続ける路地の魚屋に生活の魚買うヴェニスの人は 運河沿いの石造りの家に住むと言う老人は窓に花を育てて 白き水脈ひきて水上タクシーがスピードをあげる運河大通り 石造りの毀ちし砦残る山さみどりの芽吹きは日本に似る 石畳を歩く靴音ゆうぐれは響くと聞きて街をつれだつ 美しと見て巡りたる聖堂の一隅に彫り浄き懺悔壇あり 坂の街の聖堂に小さきミサわればわれも慎みて聖歌を聴けり 聖堂の数多ある街夕暮れてこもごもに鳴る鐘に親しむ 聖ヨハネの首を斬る絵が聖堂の隅に掲げあり名画なりとして また来るとあてなき言葉書き残す異国のホテルの厚きサイン帳 「愛に生き、歌に生き」嘆かうトスカ顕たしめてテベレ川をゆく早春の水 日本人を散髪するのは初めてのローマの床屋を夫は気に入る ローマ市街出ずれば早春の草岡に放たれて白き羊群れいる 寂れたる港の丘に立ちており日本に向く支倉常長の像 一人分の料理を分け合い満ち足りてイタリアの旅の五日を過ごす |
スペイン・カタルーニアからジブラルタルへ | |
スペイン ジブラルタル |
時かけて碁を打つ船の旅の日をかさねて春の海の穏しさ 若き葉をひろげて明るき影ゆらす港を見下ろす丘のマロニエ 日のささぬ大聖堂の中庭に男はギターを抱きて坐る カタルニアを愛した若き日のピカソ優しき顔の母を描けり 二百年後の完成をめざすと言う聖堂は工事場のごとき騒音 「神の御手になるものに直線はない」ガウディの言葉しみてうなづく 昼食に二時間かけることに馴れガウディの国スペインにいる ステップをわが胸にまで響かせて笑わぬ初老のフラメンコダンサー カタルニアの暗き情熱が風となりダンサーのドレスを翻したり 灯台のいまだともれる朝まだき海峡の港に船はよりゆく ヘラクレスの押し分けしとうジブラルタルの海峡の青き潮流迅し 城壁を築ける山から五分程のところに静かなり国境監視所 はるばると来たりし国に経度ゼロを基準としたる世界地図購う 小学生のわが地球儀には日本が赤く美しく描かれありき 十五キロの距離と聞きて望む海峡の彼方にかすむアフリカの山 |
ポルトガル・アゾレス諸島・大西洋 | |
ポルトガル |
テジョレ河を深く遡るリスボン港四月二十五日と言う橋くぐる 大西洋に向かう岬は風のなか花は光をくだきてそよぐ 陸果ててここより海とう崖にたてば眼下に荒れてたつ波 人込みで財布掏られし経緯を聞かされて夕食の席立ち難し 風のなきデッキに一人立ちて見るリスボンは憂鬱のいろに灯せり 過去の澱みいるごとき街暮れて切なげに唄うファドを聴きたり 最も遠しと思いていたる大西洋の小島に出会う日本の紫陽花 温泉の噴出はげしき火山島にアトランティス伝説を聞きて肯く 農場の垣根に咲ける凌霄花蔓たぐり見る旅の名残に 朝の日をうけてかげりの無く見ゆる小島の町の小さき教会 牛の群れの歩みにあわせしばらくを小島のバスは長閑に走る 出港を見送ると来て島人は素朴な踊りをくり返しいる 遺言状息子に渡して来たと笑う男の白き髭のびており 終日航海の船に暮らして贅沢につかう時間は間延びしており 陸を見ぬ四日の間に潮目かわりトビウオの飛ぶ海となりおり 沈まんとする日の光に華やぎてトビウオの開く薄き鰭透く 夕つ日に射たれて閃くごとき思惟人には神を選ぶ術なし 海にいて渇く思いは何の故かこの果てのいずこかに戦がある 音の無く彼方の海に稲妻のたつを見ておりデッキにひとり |