ニューヨーク・ナイヤガラ・マイアミ | |
U S A カ ナ ダ U S A |
うす濁る水にゆらりと波たてて小雨降るニューヨークに船は近づく
航行の目当てとなりいし灯を掲げ自由の女神に世紀過ぎいつ 霧雨のふりかかる朝の摩天楼思いもかけぬほどの静かさ 喧噪の摩天楼の街の月曜日疎外されいるごとく歩みつ 橋一つわたればカナダの国となりサンキューで終わる入国審査 瀧つ背の飛沫に大き虹かけて神の楽しき遊びはありぬ 崖の蒲公英は小さき花つけて瀧の飛沫を光らせている 若草の芝生のベンチに寄りてくる丸き目の栗鼠が心を覗く 開け放つホテルの窓にナイヤガラの瀧の嬉遊曲ひたに響かう カナダに見る日本語ニュースは五月場所の初日の様を伝えて終わる 新緑のカナダの風を楽しめりお揃いの麻のセーターを着て 芽吹きたつ谷底をたたえて行く川の岸に釣り人は着膨れており 出港のの夜は雨晴れて澄む空に摩天楼の灯が奏でるハープ 藍の空と摩天楼の灯の交響の中にいて聞く出港の銅鑼 摩天楼の夜景が遠く鎮まれば船の進む海の闇は深かり 散髪を旅の記念にする夫はマイアミにまずは床屋を探す Tシャツのヨットも青き帆をててるビーチを通る海よりの風 マイアミの浜は白砂サンダルを脱いで裸足を悦ばせたり ヘミングウエイの家裏に熟るるグミの木の日陰穏しく猫をねむらす 文豪の家の古びし庭椅子に猫と並びてしばらく坐る 音もなく太き猫来て伸びをする文豪の家の涼しきテラス 時折を遠く音なく稲妻のたつ夜の海あつく凪ぎいる 上甲板に涼みつつ南下するカリブ海南十字星に夜毎したしむ 明日は切ると決めて洗いしわが髪をデッキの風がさわさわと梳く |
メキシコからパナマ運河通航 | |
メキシコ パナマ メキシコ |
着陸体勢の機より見放くるメキシコの原野に焼き畑の煙たなびく 朝より暑く晴れたる空を占めてコンドルの飛ぶメキシコにいる カリブ海の朝の渚の砂に置く足音によせてかえすさざ波 熱き石整然と積むピラミッド這い登り這い下るは行なす如し ピラミッドを這い下り来てふきいでし汗乾きいる肌と気づきぬ 石の上に石の色して動かぬと見えしイグアナが不意に走れり 生贄の泉の崖に洞ありて巣ぐみいる鳥の声徹りくる 苔色の濁り水たたえし生贄の泉に暑き風も澱めり 生贄になる光栄を争うと伝説はありマヤの遺跡に 生贄を載せたるものとう石の台日は燦々と差して影持たず マヤ暦を刻むペンダントひとつ買う値切る交渉を楽しみながら 上甲板に涼みつつ見る流れ星瞬時のよろこびそして悲しみ サザンクロスのぼるカリブの海の上に金星は光の帯長くひく パナマ運河の岸辺の森の奥処より甲高く透る蝉の声する 運河沿いの森より飛びきて青き小鳥あまた日の照る舳先に遊ぶ 運河の水暑く濁らせて大き鰐が大き魚を喰う様も見つ 岸辺まで熱帯の森が迫りいる人工湖は暑き日を照り返す 給油のために立ち寄る港の岸壁の小さき店にラム酒購う 下船客を目当ての露店数多立ち岸壁は祭りの賑わいをなす 大凡の客が露店にパナマ帽買いてかぶれど若くはみえぬ 上甲板にパナマ通峡の日を過ごし日焼けせる肌を夜はかこちぬ 運河越えて太平洋に船はあり揺れに身をまかせ夜の時過ごす 船旅のつれづれに小さき童話書くまだ海を知らぬ幼き孫に 冬のなき国にも花の季ありて火炎樹ブーゲンビリア赤き花々 断崖より渦巻く海へ飛ぶ男胸に素早く十字をきりぬ 日盛りの街路樹の下に火照りおりアカプルコにたつ支倉常長像 発火点に近づくごとし炎天のアカプルコに赤く咲くブーゲンビリア 街に出て靴墨を買い毛抜きを買う船を宿りの旅にも慣れて 水平線の空にじませる街の灯を見て真夜の海に船は出でゆく 回遊する鯨見るべくゆく船のゆく海域はただ荒れて波たつ 水平線の積雲の下に荒々しスコール遠く移りゆきつつ |
アメリカ・ヨセミテ・大峡谷そして帰国 | |
U S A 帰 国 |
金門橋の下より朝の日はのぼりわが船は港へ近づいてゆく 放牧の牛が草食む丘幾つ楽しげなり風力発電の風車 春の日の明るき峡の湖に釣りをする浮き家が幾つもならぶ 雪解水に嵩ます瀧のとどろきはヨセミテの渓の若葉をゆらす 白き飛礫と見えて落ちくるヨセミテの瀧のしぶきに肌冷えて立つ 箸を使うてもとを見つめられながら公園のベンチで弁当ひらく 世紀経て幹太く立つセコイアの梢間より見えて空の青澄む 乗客の少なき早朝のケーブルカー手を振る人のあれば応うる 手際よき掏摸にあえりと自嘲する人とつきあい夜を更かしぬ 埠頭の台に群れてひしめく海豹が春の日浴みて大き欠伸す 監獄島まともに見ゆるレストランに生温きビールを分かちあいたり 泳ぎわたる近さに見えて悲しきよ湾の中に一つ監獄島は さびれたる埠頭につくられし公園の回転木馬はいつまでまわる 手袋をはめて寿司を握る金髪の女が小さくウィンクをする 砂漠の中に水をたたえて街一つ現れて来るここはアメリカ 老人ツアーのアメリカ婦人と語り合う疲れて坐る街のベンチに 老人の嘆きはアメリカも同じだと語り合うのも他生の縁 ギャンブルの街の空港スロットマシンのならぶロビーは異界に似たり 定員二十名一蓮托生の小型機に大峡谷を見下ろして飛ぶ めくるめく大峡谷の谷底に銅線のごと朱しコロラド川は 大峡谷の谷底をゆく人の影ミクロの点となりてうごめく スモッグの漂う空気に気味悪き味あると思うロサンゼルスは 浴衣・半纏・下駄・団扇リトルトウキョウで売る日本の夏 日本と同じ造りの金物屋荷造りひもを買えばまけたり リトル東京と名付けられいる街にして夜来れば居酒屋が小さく灯す 三時間の時差は季節も動かして汗ふき出ずるハワイに着けり 三十分でさっぱりと髪を刈り終わるハワイの床屋を夫は気に入る 六十才以上割引で入る水族館のイヤホーン解説に日本語を聞く ハワイの海にレイを放れば再訪の叶うと聞けばわれらも倣う 葛きりを食うべて夏と思うなり海豚の泳ぐハワイの沖に 珊瑚礁の海に水脈長くひきわが船はミッドウェーの沖を過ぎたり 悲しみを沈めていまは凪ぎわたる戦跡の海に花をながしつ 国幾つ興りて滅ぶを刹那とし地球は青き水の惑星 梅雨に入る日本を夕食の話題とし旅のおわりは近くなりたり 日付変更線を過ぎて失う一日が空白となる今年の日記 日本へ電話のかかる距離に来て飛鳥は俗世に近くなりいる 暁の東京湾に入る船まだ暗きデッキを人は行き交う 意識せずに出港をせしことを思う帰り着きし日本の風景はよし 日本の風景の中にいることの安穏ありて無言のわれら 梅雨晴れの暑き街へと歩み入り日本の臭いを嗅ぎ分けている |