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茫茫漫遊記 永平寺・比叡山・高野山編


 
 
 結界に拒まれて女人が籠もり しとう堂は小暗く俗世を隔つ

 前世のカオス鎮めて苔むせる 五輪塔並ぶ高野の山は

老杉の下陰に苔むす五輪塔黄昏はここより始まるごとし

遍路道ここに始まりここに終わる大師廟の前にわが立ち止まる 

大師廟の前に経誦して発ちてゆく遍路は小さく鈴を鳴らしつ

苔むして碑銘の読めぬ宝塔に修羅なす前世の物語あり

小さき仏像毀ちて道辺に数多並ぶ慎ましく只管なり人の祈りは


朝しめる老杉の下の道を来て遍路の鈴の音遠く聞く

花ならぬ高野槙供うるならいにて老杉の下の墓群暗し

結縁の紐を手首に結ばれて宿坊に安心の一夜を過ごす

女の影見えぬ宿坊の素朴なる精進料理の刺身蒟蒻

宿坊の庭には少しふふみたる石楠花のあり高野の五月


宿坊の一夜の宿り静かさに相応う炬燵にぬくもる二人

早朝の勤行あれば連なれり冷たき水に顔を洗いて

宿坊の朝の勤行に連なれど帰依には遠きこころのあわれ

万葉の歌を思いつつ静かなる石上のみ社に柏手を打つ

人麻呂の歌碑なども見て平穏に生き来し顔に春の旅する

朝の道ゆるゆると来て立ち止まる猿沢の池に映る新緑

奈良公園の鹿も新緑の木々を吹く風も親しよ夫と連れ立つ

藤棚の下のベンチに腰掛けて過ごせり一期の思い出として

三日の旅終えて帰れば鉄線花夕暮れの庭に咲きて揺れいる

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