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茫茫漫遊記 永平寺・比叡山・高野山


 

姑の分骨を納めに旅に出る八十路に近く脚病む夫と

夫の抱く鞄の中に鎮まれり姑の分骨を入れし小壺は
姑の分骨を納むると行く旅に蜃気楼立つという海遠く見つ
本山の僧に渡すとき微かなる音せり姑の小さき骨壺


戒名を書き受け取りを貰うなどして納骨の手続き進む

生を明らめ死を明らむと誦和して僧の幾人堂をめぐれり

わが使う数珠は姑より貰いしもの手に馴染むまで年月を経ぬ

納骨の法要を終えて身の軽くなりたる二人が蕎麦すすりあう

姑の分骨納めてくだる永平寺若葉の山に風鮮やけし

雲間より湖に差し入る朝光を乱して小さき釣り船がゆく

逆光に影黒く見せ釣り船の人は何を釣る身を撓わせて

とのぐもる朝の琵琶湖の対岸に柔らかに霞む近江富士立つ

遠き日も松をならして過ぎしかと朝の浮御堂の風聞きて立つ

文殊楼の反り美しき屋根に添う比叡の山の遅き桜は

ひっそりとカナメモチの花が藪影に咲いて比叡の山の春ゆく

不滅の宝灯ともる小暗き中堂に護摩行をなす僧独り坐す

護摩行の僧の後姿見つつ立ちわが祈ることあまりに多し

信仰のうすき二人が仏前に善男善女の顔して座る


山上は遅きさくらが咲きおりて微かな風にも花こぼしたり

冬を越すつや葉相応うゆえ植えしとう比叡山東塔に盛る石楠花

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