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茫茫漫遊記 極北・アイスランド編 (2) (1)
アイスランド・世界遺産シングベトリル・ミーバトン湖


アイスランド


























大地溝帯をしずかに流るる川の辺に白壁まぶしき教会ひとつ

地溝帯の川にコインを投げ入れて占うならいのあればわれもする

花を掲げる向日葵にもカンナにもあわざりきアイスランドの夏を旅して

ブヨあまた顔に寄り来るを払いつつ「蚊の湖」と言う名の湖めぐる


極北の国なれど大き湖に阿寒湖のマリモと同じ種育つ

極北の不凍の湖に育ちいる緑のマリモは意外に硬し

地熱もて蒸したるパンも食うべたりアイスランドと言う火山の国に

五年ごとに大きな噴火がありますと聞きて旅人のわれは怖るる


サガと言う口伝の物語あるのみに極北の国の歴史は暗し

いつまでも暮れない夏を知るのみに観光客われらはこの国にいる

日に幾たび大きく淡き虹架かるフィヨルドの断崖に過ぎし幾万年
グリーンランド・イヌイット

























小さき村には小さきなりに慎ましく小さき教会のある穏やかさ

翡翠色の氷山の海をボートにゆく救命チョッキを気休めに着て

夜のなき夏の日も昼のなき冬の日も一日を二十四時間として妖しまず

イヌイットの部落は青き氷山の流れ寄る湾の奥に鎮まる



牧師の居らぬ教会を集いの場所とせるイヌイットの笑まう顔の親しさ

写真撮ると言えばVサインして笑う白き歯目立つイヌイットの子ら
イヌイットの小さき教会晩夏光は氷のごとき窓透きて来る

流氷の海の底に獲物のアザラシを沈めてイヌイットの村は夏なり


名を書かぬ白き十字架が立つのみに風つよし氷河に真向かえる墓地

対岸の氷河が海になだれ落ちるときじくの音の聞こゆれば立つ

手袋を外して書いた絵はがきを最果ての飛行場のポストに落とす
アイスランド・ヴィーグル島


アイスランド
















夜の長き国ゆえ妖精の物語あまた伝えて夢見るものか

滾り出る泥湯を悪魔のシチュー鍋と呼ぶ物語に親しむ人ら

サンタクロースが一ダースいてその母もいる国ですとガイドが笑う

アイスランドに買いし世界地図日本は東の端にありて小さし



網をもて食糧の鳥を捕る暮らし楽しげに言う島の乙女は

愛らしと見ゆるつのめ鳥を当然として食糧となす島の暮らしは

髪ながき少女ひとりいて切手売る郵便局ありアイスランドの島

生活のために風車を一つはたらかせる島の少女のバラ色の頬


フィヨルドの藍深き海にゆるやかな水脈ながくひきてわが船はゆく

島人の手作りなせるケーキ食ぶ形整わぬことも楽しく

開園は夏の三ヶ月と定めありアイスランドの小植物園
   
丈低く大輪に咲くコスモスのありて極北の夏の妖しさ


恙なく老人二人の旅を終わる今宵は白ワインのグラス掲げて

壁にかかる貴族の肖像に睨まれつつロブスター食ぶる旅終わる夜は
落日を見ると出で来し午後十一時海に向かえり旅の終わる日

暮れなずむ浜辺はデートコースなりと若きガイドはわれを案内す

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