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茫茫漫遊記 極北・アイスランド編 (1) (2)
コペンハーゲン





デンマーク






















留守にする十日のために冷蔵庫を三日がかりで空にしてゆく

旅に出る心はずみを包み置くスカーフは青き罌粟の花柄

夏帽子少し傾けて被る影を長しと見つつ今日は旅に出る

発つ日より帰りの切符を買いて持つ旅に捨ててくる思いとともに

過ぎて行く台風を追うごとく飛びシベリアの上で揺れる飛行機

眼の下に雲のみ見せて飛行機は十二時間の時差を飛び越えている

今更に探して術のなき夢をまた見んと居り家を離れて

コニチワと言う審査官にサンキューと応えて通るオランダ空港

花火ふたつあがればやっと夜になちチボリ公園は門を閉ざせり

ダリの描く時計のごとくぐったりとわれの体内時計が回る
フェロー諸島


フェロー諸島





















空港とホテルのみたつ北国の夏野に小さし草の花々

のっそりとのっそりと猫も住みつぐ草葺きの家に温かき日のさして居り

窓枠の白さが目立つ古き家に祭り衣装の少女はじかむ

老いも若きも晴れ着を纏い踊り明かす素朴な祭りの残る島あり

縫い取りの赤きチョッキの晴れ着つけ老いは写真にポーズをとれり
神妙に市長の長き演説を聞きて立つ晴れ着に装う島人

フィヨルドの断崖の上に羊を飼い島人は短き夏を楽しむ

フィヨルドの海を吹く風の中で飲む熱きコーヒー身に響くなり

海鳥の雛を育むフィヨルドの断崖を不意に霧はかくせり

フィヨルドの暗き洞のこだましてわれを呼ぶ如き自らの声

老いし身をかばい合うことも愛と言うか夫と旅して十日を過ごす

黄昏の長くとどまる海にむけばわが身に低くうたいだすチェロ
レイキャビックブルーラグーン


アイスランド















北国の短き夏に咲く花の地に低くして小さきあわれ

ブルーベリー熟れしを摘みつつ歩む野の果ては淡あわと虹かかる海

海鳥のひしめきあいつつ巣を作る断崖に極北の暮れぬ夏の日

バイキングと言う名のビールを掲げあう大き切り身の鮭くずしつつ

真夜さえも薄明かりする夏の空に星美しと見ることのなし
気短かになれる夫より若いから首をすくめる術が身につく
湯の瀧に激しく打たれいるしばしわが身はまさしくわれのみのもの

空を映し渺茫と広がる露天の湯にひたれり遠く来たりしわれは

昼の光に妖精が石となる話楽しく信じん北を旅して

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