ロシア2
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8月25日 |
体制の変われることを諾いて老ロシア人は肥えて杖ひく
容易く疲れはとれぬ旅の身を熱きサウナに励まされたり 味噌汁が恋しくなれり平均年齢七十才のツアー五日目 国境とう言葉を切に思わせて濁る大河は重々とゆく 故郷をひた恋いて逝きし人らありきアムール川に赤き日沈む アムール鉄橋ゆるゆると渡る列車見て引き返したり旅の日の暮れ アムールの長き鉄橋貨車七十輌制限速度四十キロの列車過ぎゆく 視野のはてを列車の過ぎるこの国に亡命せる日本人女優のありき ロシア語はわかりませんとうロシア語をひとつ覚えて旅するわれは |
噴水に小さき虹のかかる見つ夏の終わりのレーニン広場 共産党本部を日本人抑留者が建てたと聞き無言のままにその前を過ぐ 華やかな赤き花並べて売りいたりロシア人墓地の前の屋台店 紙風船小さきをひとつ供えたり日本人墓地に白き晩夏光 日本料理となづけられたるトンカツを食べてロシアに親しみの湧く 招かれしオリガの家は古きアパート夏の終わりの雨に濡れいる 大き手に包むようなる握手する平均的市民のオリガとサーシャ 短き夏を耕して過ごす小さき家を別荘とよびて満ち足るる人ら 手作りのジャムとケーキのお返しにサクラサクラをわれは唱いぬ さよならを言う前に唱うサクラサクラ晩夏の雨を窓より見つつ |
自由市場に身振りで買いしオレンジを抱いて乗り込むシベリア鉄道 落日にくまなく染まる野を過ぎりわれは果てもなく旅するごとし 劇中にあるごとくわが心をゆらす夕日に染まる野をゆく列車 灯りひとつ見えぬ広野は星を満たす空あることをわれに知らしむ 真夜覚めて大き火星をシベリアの広野に見たり夢にはあらず 仰がるることすでになきレーニン像手を挙げてたてり街の一隅 軍港を見下ろす要塞を博物館として見せるなりロシアの今は 凍る港をわが知らざれば不凍港と殊更に言うを訝しく聞く 博物館とせる要塞の正午のドン兵士が打てり演技のごとく ドイツとの戦いを経し潜水艦と聞けば夫は長く見て立つ 汗の臭う狭き潜水艦の操舵室に切実のときありしこと茫々 青空に革命の畑を掲げて立つ像を巡りて鳩あまた飛ぶ 食べたくもなき飴買いて使い果たすポケットに重きロシアのコイン 対岸にある国が最も遠い国と改めて思いわが旅終わる |