ロシア1 |
8月23日 |
ロシアへのツアー参加者は三十人平均年齢は七十才と言う 機内食のケーキの硬き歯ごたえを確かめながらロシアに向かう 遠き日の父は故郷を恋いしかと黄昏るる海を見て人の言う 空港に無表情を表情とするごごとく人ら働く寒きロシアは ウラジオストックはモスクワに遠しレーニンの銅像が公園に堂々と立つ 若き日の記憶に重なるロシア民謡ロシアの青年と並んで唱う 体制の変換をくぐりし青年が語りのごとく民謡唱う 二十四時間営業とありて灯り暗き店に日本のビール購う |
うす暗き聖堂に人ら声和して祈る背中をわれは見てたつ 信仰を持たざるわれを怯ませる大き目を持つイコンのマリア 手のとれし鍋を差しだす老婆おりミサあげる声聞こゆる道に 宗教は麻薬と言いたる激情から覚めて寡黙なりロシアの人は 信仰を捨てざりし人が再建せるロシア正教会空色の屋根 永遠の灯をともしある慰霊碑に若きらはつつましく花束ささぐ 雨あとの修道院の庭つややかにシベリアリンゴが実をつけており 草むらに酔いつぶれいる男いてうす寒しロシアの秋の日差しは |
8月24日 |
バイカル湖の岸の岡辺に雨過ぎて浜なすは紅を濃くしていたり 踏み石の様に抑留日本人の墓並ぶバイカル湖を望む岡辺に 小さく白き花つけし草しげりおり抑留日本人の墓のめぐりに 抑留者の心を偲びいるわれにガイドはにこにこと墓地を案内す 白樺の林を過ぎてバイカル湖の波光らせてゆく夏の風 みずうみの岸の小さき村に咲く日本と同じいろのハマナス バイカルのみな底深く棲むと言う身の透きとおる魚の幻 伝説の幾つを深く沈めつつ冬を凍る湖に夏空映る 凍土の下に眠りてありしマンモスのクローンを創ると人は夢みる 幸福をよぶとうバイカルの石ひとつあがなう人あり何を哀しむ これまでを幸せと思わぬ人の手ににぎられて小さき紫の石 |