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短 歌 アメリカ編1
アメリカ1
8月9日 ナイヤガラ

ジュース飲む孫とコーヒーのむわれと時差で目覚めぬ身をかこちあう

カリカリのベーコン長く噛みており孫と向き合う朝の食卓

小雨降る平原の彼方に濃き霧をたててナイヤガラの瀧は見え来ぬ


ナイヤガラの花火始まる午後十時時差に狂いし身をひきおこす

瀧の上に開く花火を見て座るはかなく遊びにしばし華やぎ

瀧の上の花火終われば静かにて前世のような夜となりいる

十歳の孫と競いつつ泳ぐなりナイヤガラのホテルの短きプール

永劫に神は怒りてあるごとく感傷を許さぬナイヤガラの瀧


瀧の飛沫あびて浄まるわが身とは思わねど船は瀧に近づく

モンローが国家機密を知りすぎて殺された話もはや過去の事

パスポートパラリと見せて橋を渡り私の巡りで国の名変わる
8月10日 ボストン

マラソンのゴールを示す黄の線をあざやかに描きあるボストンの街路

遠き日に友と連れ立ちしボストンコモンしげり合う木の緑したたる

箒目をくきやかにたてし天心の庭ありて親しよボストン美術館


水族館の岩陰にいる毒ウツボに怯む心をのぞかれており

水槽の明かりに青き身をゆらす魚はふるさとの海を想わん

レッドソックスの帽子をかぶる孫と歩み親しさの増すボストンの街

ボストンの四番埠頭のレストラン孫の乳歯がぽろりと抜ける

やすやすと乳歯がとれし事なども孫には旅の思い出のひとつ


孫の乳歯てのひらに載せその父を育てしころのわれを思いつ

お母さんに見せると言いてあどけなし抜けた乳歯を孫はしまいぬ
8月11日 ワシントン

空港のチェックを受けると靴を脱ぎ人ら黙々と長く列なる

靴底までチェックを受ける厳戒態勢くぐると言う感じに空港に居り

鍵すべて外して預ける荷の中に日記をしるせるパソコンもあり


戦争は遠き国にありホワイトハウスのひろき前庭の芝生のみどり

ホワイトハウスの写真を撮ると立つ場所にデンと据えてある道路原票

緑の芝生囲む鉄の柵高くして夏日照り返すホワイトハウス

厳戒のホワイトハウスにほど近く屋台の店はTシャツを売る

辿り着きしワシントンのホテルに飛び交える異国語の中に日本語聞かず

軍人墓地に白き墓標を整然と並べて平和に遠きこの国

身捨つる程の祖国かと思い立つわれと軍人墓地を小雨が濡らす


茫々と前世あるべしケネディとジャクリーヌ・オナシスは墓を並べて

黄の皮膚に少し卑屈な思い抱くわれと気づきて米国にいる

アメリカの酒場にカクテルのベースとなり新潟産の銘酒が並ぶ

食べ過ぎは駄目よとう電話の母の声日々聞かされて孫は旅する

地球の裏にあるわが家に電話して常よりも透る嫁の声聞く


写真を撮ると言えばすましてポーズ取るアムトラックの車掌若くはあらず

特急と言う名の列車ゆっくりと緑したたる広野をよぎる

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