トップページへ戻る
短歌一覧へ戻る
茫茫漫遊記 サハリン紀行編
函館・サハリン一日紀行  


修道院のロザリオかけいし亡友を憶い仰ぐ十字架の上を行く雲

孫達には祖母の顔せんとお土産に購うはクッキーまたバター飴

漁り火の浮かぶ海見ゆる窓の辺に言葉の要らぬ時を過ごしつ


夕映えの静かにくらみゆく海の漁り火は二人を無口になせり

寄する波かえす波に遊ぶごとくして鴎らの居り暮れゆく渚

海に向く露天の湯舟感傷を誘うごとき波音聞こゆ

逆光に面さだかならぬ啄木の像に寄りて聞く夕海の音

未生よりわが聞きなれし親しさに寄せてはかえす夜の海の


出港の銅鑼響かえば何がなし憂いうすれて見る海の青

旅心定むるために銅鑼か鳴り遠ざかりゆく小樽の港

暮れてより出でし外海の波に揺れる船の一夜は心も揺らす


海上の国境を越えて近づける港にのぼる大き朝日は

夢と言うには悲しすぎるよ粗草の丘に兵の記念碑一つ

兵の夢のあとなるサハリンの丘に草摘めり指を濡して

雨に濡れしの乏しき黄の花に故郷を思いし兵もあるべし

樺太神社跡とう荒れ地に参道とおぼしき坂の道をたどりつ
樺太神社跡の荒れ地は既に秋雑草ががさがさと実を揺らしおり
粗草覆う神社の跡を下り来れば堂々と建つロシア戦勝記念碑
樺太の生活懐かしむ人のいて何故か戦後の苦難は言わず


国境と記したる碑が展示され樺太博物館に見る日本の過去

遠き日の日本の時間とどめしまま柱時計ありサハリン博物館
噴水のあがる庭園の片隅に戒名の彫られし石置かれあり


ガガーリン公園は日本の公園なりしとう松の林を風わたる音

サハリンのホテルのロビーにヤマハピアノ自動演奏しているソナタ
雨上がりの展望台より望む海をタンカーが過ぐ黒き影となりて

老いを隠さぬデュークエイセスの歌を聞くわれらも互みに老い肯いて

心揺れて短きサハリンの旅は終り夕暮れの埠頭静かに離る


小樽駅に裕次郎ホームなどと言う長閑さありてSLが発つ
帰り来れば日本と思う景色あり羊蹄山には白雲かかる

谷間の無人の駅に天界の青とう朝顔咲き盛りいる

[上へ戻る]

トップページへ戻る
短歌一覧へ戻る