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茫茫漫遊記 日蝕体験編
皆既日蝕体験

留守をする夫にこまごまと言い残し五日間の自由わが一人旅


旅の夜に見る夢はみな短くて覚めてたどきなし水飲みにゆく

リュックひとつに気軽く降り立ちし空港は確かに異国キムチが臭う

旅の無事祈ると賜びしストラップの小鈴の音は耳寄せて聞く

道に添う並木に暑熱こもりおり赤き夾竹桃また百日紅

眉あげて日帝強制支配と言う若きガイドに笑顔はあらず


漢字の文化捨ててしまいし韓国は隣国なれどついに馴染めず

日本海を東海と呼ぶ韓国人の心の底に重くよどむもの

京城と呼び習いし過去をふと言えばガイドは無言に眉を上げたり

日式とう和風朝食の定番も韓国にあれば韓国の味 

日本の統治を言葉のみに知る若きガイドの棘ある言葉


読めず解せぬハングル文字に落ち着きのなく韓国の街を歩めり

日本文化を蔑みて言うは若きガイド幼き愛国心と聞きて憐れむ

負かされて苦き顔する朝青龍韓国のホテルのテレビに映る


竹の足場に囲う建物の数多あり世界博を待つ上海の街


首すじにしたたる汗をぬぐいつつ西瓜を切り分けて売る男おり

水郷の橋のたもとに屯してもの売る女はみな指太し

胡弓弾く老人の髭長く白し夕かげり来し世界遺産の庭

水郷の渺茫たる野をながれゆく朝の霧は心を揺らす

撮影器具設えて日蝕を待つ人ら煙草吸い歩き回りまた空仰ぐ


当てにならぬ天気予報が日蝕の今日は的中して憎まるる

何を探す旅かと思う一人来し中国の空を覆う雨雲

朝よりぬくき庭石に腰掛けて日蝕始まるを飴なめて待つ

皆既日蝕はじまるをひたに待ちて座る湖の岸の夏草匂う

日蝕の近づきし頃は雨となり空気の重く澱むに似たり


湖に飛沫きつつ降る雨の中一瞬晴れよと日蝕を待つ

科学を信じ触の終わるを待ちながら皆寡黙なり深き闇のなか

日蝕の暗黒を恐れしいにしえ人近く思いて時過ごしたり

打ち付ける雨音聞きて寡黙に立つ日蝕の闇つづく六分間

暗黒の皆既日蝕の六分間告ぐべき言葉ついに探せず


太陽の明るさ戻れば落ち着きぬ生物の一種の人間われは


ピーバとう民族楽器に日本の歌唄う女来てチップを欲りぬ


日蝕のあともふりつづく雨の中寒山寺に来て鐘声を聴く

寒山寺の僧にひたすら薦められ小さき箱の線香を購う

十元と声かけて来し傘売りに雨漏りのする傘売られたり

鮮烈の記憶とならんずぶぬれになりて登りゆく虎丘への段

傘を漏れてしたたる雨に濡れながら蘇東坡の頌えし虎丘にのぼる


蘇東坡も仰ぎし丘の木々の緑雨に打たれつつ顔あげて見る

濡れシャツを着替えさせくれしお茶の店に幾種類ものお茶を購う

宋慶齢の住みし家跡に開かるる雑伎団のショーを楽しみに行く

触れがたき思い抱きつつ来し国に絹のスカーフ家つとに買う

十元で買わされて旅を共にせし傘も畳んでリュックに納む


意識して日本を思うわれとなれり中国韓国の小さき旅終えて

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