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茫茫漫遊記 遠野の一日編


遠野の一日
                 

芽吹き立つ遠山の木々に触れて来し風よわが耳に何をささやく
日の当たる斜面に金の山吹が揺れいる峡に道はつづけり
苔むして谷に重なり倒れいる石に彫られあり五百羅漢像
木下露に濡れて苔むす羅漢像に幼き顔と見ゆるもありぬ
五百羅漢を被う苔濡れし谷間は杳として霊力の淀めるごとし
カッパ淵へとたどる小道は土の道柔らかに生うる草をふみゆく

タンポポの花摘みてゆく野の小道「おててつないで」と誰かが歌う

神のなす業としてただに怖れたる素朴が民話となりて語らる
魑魅魍魎ひそむかと思う妖しさに黒々と太き古民家の梁
あやかしの民話が似合う遠野を囲む早池峰、六角牛石上の山
茅葺きの大き民家は煤のにおう鴨居組まれて昼もかぐらし
山笑うとわれも口ずさむ峡に来て小暗き家に民話を聞きぬ

ぼそぼそと語り部の妖しく語る話昔わたしは聞いた気がする

「遠野物語」の呟きに似る文体を思い出させる鄙の語り部

隙間なくおしら様が壁を埋めている小暗き部屋の空気の重さ

薄暗きおしら様の部屋は自ずから迫り来る祈りに圧されるるごとし

語り部の吐息の様な風が吹く遠野を囲む新緑の山

茅葺きの曲り家の座敷の小暗さに慣れし眼に痛し光る若葉は

曲り家の縁に座りて遠山の若葉を揺らす風を言いあう

ひっつみとう素朴な昼食に満ち足りて歩み過ぎたり花桃の下 

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