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茫茫漫遊記  短歌  沖縄・新年編

敗北より死を選びたる幾千の自裁を聞きてオキナワにいる

幾千の屍積みし壕跡に自ずから唱うる南無阿弥陀仏

壕の壁に自ら命を絶ちし跡ありて幻に兵の屍

散華とう美しき言葉に飾られて逝きし命はみな若かりき

壕を掘りて司令部をつくる兵たちが勝つと思っていたのだろうか
豪州の旅人が慰霊碑の辺に立ちて摩文仁の海を美しと言う

戦争を物語として聞く世代と寡黙になりて戦跡をゆく

琉球は大和とちがうと言う沖縄訛りの老ドライバー  

オキナワと言えど雨寒き摩文仁の丘並ぶ慰霊碑に人影を見ず

沖縄の海平らかに見ゆることも悲しみとして冬の旅する

国敗れて六十年使い古りてこわれかけている平和とう言葉

紅生姜薬味に飾る沖縄のソバ食みて恙なく年越すわれら

紫芋を入れて搗きたる餅を食べ新しき年を新鮮に居り

雪の降る故郷遠し豚足も豚耳も美味しと言いて

口中にボヨヨンと言う感じして豚足の皮身とろけゆきたり

「大丈夫ですか」と顔を覗かれる豚足と豚耳うましと食めば

迷彩色の軍用車輌数多並び風吹きぬけるここも日本

戦争を知らぬ世代がガイドする首里の丘に朱の鮮らしき城

占領を過去として知る娘たちが写真撮るために着る琉球紅型

琉歌一首口つきて来る夜の星冬海からの風にまたたく

首里城の美しく積む石段を老いしわれらはゆるゆると登る

首里城の若きガイドは砲撃に消失せる歴史を軽やかに言う

幾人も身を投げしとう断崖を美しと見る迄時は過ぎたり

海波の飛沫たち来る崖に捨てられぬ過去を見る如くおり

国敗れて残る米軍基地延々と有刺鉄線が広野を囲む

太き穂を揺らす風など見て過ぎるさとうきび畑戦後六十年 

騒音に似る音楽が流される那覇のレストラン異国にも似る

沈む日も昇る日も見ずに過ごしたる沖縄の三日間風音ばかり

戦いを遠き国のことの如く聞き平和を言いて沖縄にいる

沖縄にも戦争を知らぬ世代ありて易々と平和を口にしている

傷だらけの沖縄を見し同じ目にすくと立つ新春の富士を見放くる
       

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