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短 歌  伊勢詣り・名古屋編
12月31日  伊勢赤福を買う

穏やかな重さ嬉しく提げて歩む伊勢土産赤福の小さなつつみ

大晦日の宮居静けし参道の玉砂利を踏む音のしたしさ

闇ふかき神域の森に包まれて畏れ兆せりわが現身は


神域の森暮れやすく御手洗の五十鈴川の水はただに暗かり

年あくれば篝火を焚く参道に切り口白き薪積まるる

神域に幾世を経しか仰ぎ見る風なきに揺らぐ大樹の葉群
1月1日  五十鈴川御手洗

万両の一枝を挿せる備前焼の瓶すがやかに年あらたまる
新年を祝ぎ言う孫の電話の声旅にいて聞けば大人さびいる
新年の参道を歩む人らみな善男善女のごとき顔せり
初詣の掏摸もいるよと聞かされて年初よりあわれ疑心を抱く

跪き五十鈴川の水に手をひたし心浄まると思うはかなさ
正宮にしずかに進む神官の衣冠は荘厳の空気をまとう
参道の玉砂利を踏む夫とわれの音揃うごとしと聞きて慎む

大初より神域の森に棲みつげる獣らに窺われているかわれらは
寂しき眼の神馬一頭飼われいて狭き厩舎の土蹴りており
1月2日   伊勢から名古屋熱田神宮

フランス風鮑のステーキの不思議な味これで命が少しのびるか
旅の夜の短き夢にあらわれし亡き父を追う足もつれたり
ともかくも今まで生きたと夫言うに頷きぬ海に日ののぼるとき
海風のはげしき道を辿りゆく注連縄で縛られし夫婦岩見に

夫婦岩をつなぐ綱さえ切る嵐ありと言うを聞く諧謔のごと

シンセサイザー奏でつつ初日を拝みしとう若き男が岩山にたつ

五百米の標高に展望台のあり入り江の海の凪ぐを見放けて

伝統の海女の作業をショーとして冬の海辺に見て哀しめり

冬海に漁るショーをする海女たちがいとも楽しげな笑い顔する


戦勝祈願ひたすらなりし遠き日のわれを思いぬみ社の前

携帯電話の干支の根付けをゆらしつつ誰と話すのか晴れ着の乙女

ヒツマブシをひまつぶしと読み違う似てはいないが似たもの夫婦

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